要:機密部分は秘匿。
戦果確認調査結果
連邦軍■■空戦部隊■■艦搭乗員戦闘機P■■氏を「2級空戦偵察章」及び「空戦SB章:眼」に認定。
調査した内容に付いては以下のプリントを参照。
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■■時■■分頃、エルカラードでの■■氏とのやりとりについて、戦闘機P□□氏証言に基づく組み立て。
◇◇◇◇
「おい、早く整備しろよ後がつっかえてんだぞ。」
そう整備兵に急かす■■先輩(以下■■)の声で俺は目が覚めた。
時間帯は昼を過ぎた位で、自分は食堂の隣の休憩室で仮眠を取っていた。
とは言っても食堂の隣についたてがあるだけの物だったが。
何だと思って起きてみると■■が食堂にあった有線電話で戦闘機のハンガーに電話をしているところだった。
「そうなんだよ、今日は無線機の調子が良いらしいから一刻も早く偵察任務に就きたいんだが。」
一見■■が仕事熱心だと思うだろうが実際はスカイバ―■■――(初期検閲により解読不能)――
しかし今日は艦内有線の調子が悪いのか整備兵が渋ったのか、■■はかなり大きな声でがなりたてていた。
「■■、食堂なんでもうちょっと静かにしてもらえませんかね。」
いくら先輩とは言えど安眠を妨害された俺は寝ぼけながら少し怒った声で注意した。
しかし■■は俺の姿を見ると恐らく権限で捻じ伏せたであろう整備兵が不満たらたらなのが聞こえてくる受話器をガチャンと置いて、
「よう□□、お前さっきの話聴いてたよな?だったら話は早い、書類作ってくれや。」
凄い剣幕でこちらに迫ってきた。
無線機の調子が良い日に出たがる理由は俺と先輩が知っている事だったので特に反対はしなかった。
だが出撃書類を弄り回すのだけは御免被る所だった。
「出撃書類くらい自力で何とかして下さいよ。」
「嫌だね、整備兵を黙らせたからもう出撃なんだ。それにお前後輩だろ。」
後輩、という文字を出されたらもう反論できなかった。
なので渋々であったがニヤニヤしながら手を振る■■を後にして事務に出撃書類を貰いに行った。
出撃書類を俺に出させた理由はもう分かり切っていた。
「あんニャロー俺の整備済みの機体で出撃するつもりだぜ。」
思わず声が出てしまう。
しかしそれも当然、■■は自分の機体が整備中だと知ると他人の、特に後輩の機体をかっぱらうのがいつもの事だった。
そのために何回書類を書かされた事か。
しかしそうするだけの理由がある事は確かだった、自分も先輩になったらやってやる。
そして俺の機体を使って■■が臨時で出撃するという旨を書いて、事務に提出した。
まぁ、常習犯だったので当然事務の女性隊員に目を付けられていたわけで。
必然的に事務の女性隊員にの愚痴を聞くことになった。
もちろんこちらが悪いので毎度のごとく頭を下げることになる。
書類を書くのが苦手というのはほぼこの一連の流れになるからである。
+αで尉官佐官に見つかったら目も当てられない。
■■が素行不良で叱られるのは良いのだが、セットで後輩を巻き込まないでくれといつも思う。
だが、その度に後輩共とと一緒に酒盛りして奢ってくれるから性質が悪い。
そんなわけで書類の写しを貰ってハンガーにたどり着くと丁度■■が戦闘機の暖機を終えて出撃する所だった。
■■はパレットに乗って甲板に上がっていく。
そして下に俺がいることを見つけたのか、コックピットから身を乗り出し手を振ってきた。
「なんとか間に合いましたよ!今日は先輩が奢ってくださいね!」
浮遊機関やパレット操作の音がうるさく、■■には聞こえなかっただろう。
だがニュアンスは伝わったのか手を振るのをやめて、見えなくなるまで親指を大きく立てていた。
それが■■と関与した最後だ。
その後整備兵に平謝りしながらどうにかして書類の写しを受理してもらった。
◇◇◇◇
■■時■■分頃、同時刻同地点で偵察任務に就いていた偵察機P△△氏無線電信及び光電信を解析。
◇◇◇◇
■■:(無線電信)空の眼、聞こえるか?
△△:ああ、聞こえている。
■■:弱電だったが通じてよかったぜ。
△△:何か用か、おしゃべりには付き合わないぞ。
■■:ああ、最初から諦めてるよ。
△△:じゃあなんだ。
■■:偵察中と思われるグランビアを発見。
△△:バカ、早くそれを言え。聞かれたらどうする。
■■:だから光電信に切り替える。俺の座標は分かるか?
△△:分からなかったら空の眼なんてやって無い。
■■:そりゃ良かった。
■■分後
△△:貴機を目視で確認。光通信を行うので見え次第返答されたし。
△△:(光電信)連邦万歳、連邦万歳。―以下繰り返し
■■:見えた、連邦万歳、連邦万歳。
△△:で、どこにグランビアがいた?
■■:俺から見て前の方の低空にいる。
△△:低空という事は奴さんはここまで俺達が来ていることを知らないな。
■■:でも普通なら高度を上げて偵察するんじゃないか?
△△:聞いた話だと生体器官はかなりじゃじゃ馬らしく、機嫌を損ねないように戦うのにコツがいるらしい。
■■:じゃあそんな理由で低高度飛び廻っていると?
△△:恐らく。
■■:ならまだ近付けるんじゃないか?
△△:危険だが、単機ではぐれた訳でも無さそうだしな。
■■:なら俺は一回トゥラーヤに戻るついでに他の奴らを呼んでくる。
△△:ああ、任せた。自分はこのまま偵察を続ける。
■■:見つかるんじゃねぇぞ?
△△:何年偵察任務やってると思っているんだ、お前よりは断然マシだ。
■■:分かった、また戻ってくるぞ。
△△:お前と一緒に飛びたくはないね。
◇◇◇◇
■■時■■分頃、大型無線を抱えた連絡艦と援軍の偵察機、戦闘機と共に戻ってきた時点。
◇◇◇◇
■■:(無線電信)戻ってきたぞ。聞こえるか?
△△:聞こえているぞ、元いた地点から■■キロ前方にいる。
■■:見えた。光に変える。
■■:(光電信)連邦万歳、連邦万歳。
△△:見えた。連邦万歳、連邦万歳。
■■:で、首尾はどうだ?
△△:図らずとも大物を釣り上げたらしい。
■■:と、言うと?
△△:奴さん、自由パンノニアに一撃離脱で奇襲をかけるつもりだったらしい。
■■:まさかとは思うが、マジか?
△△:大マジだ、この先のヒグラート渓谷に大艦隊・・・とは言わなくとも中規模艦隊が駐留している、と思われる。
■■:なんてこった、気付かなかったら危ない所だったな。
△△:ああ、だがこの地域にいる味方艦だけで殲滅するには数が足りない。
■■:そんなこともあろうかと、連絡艦は数が揃っているから後方まで今すぐ情報を伝えられるぜ。
△△:ありがたいな。だがまだ未確定要素が強い。
■■:援軍はこのまま偵察に参加か?
△△:そうなるだろう。ヘマはするなよ。
■■:俺だって長年やってんだ。俺より年下の奴らに言いな。
△△:お前のおちゃらけた態度が一番不安要素だ。
■■:知らんがな。
△△:まぁいい、とりあえず後方まで連絡は頼んだ。■■および他の偵察機は引き続き敵情偵察任務へ就け。
■■:俺だけ名指しかよ。
■■分後
△△:確認した限りでは戦力分布は対地に偏っていることが判明した。
■■:ただよぉ、空の眼。
△△:なんだ。
■■:旗艦がグレーヒェン級というのはどういう了見だ?
△△:知るか、どこかの貴族が指揮でもとっているんだろう。
■■:お前の冷血さに肝が冷えるね。
△△:当たり前だ、あんなボンボン貴族の艦を過剰評価してる方がどうかしてる。
■■:ほとんどボンボンだけどさぁ、中にはヤバい奴が乗ってる場合もあるっていうぜ?
△△:だとしたら尚更、こんな激戦区で、しかも渓谷の内部で陣取ってるわけない。
■■:まぁ、確かにそうだな。
△△:上手い指揮官だったらそもそも、もっと後ろで戦力を整えてから来る。
■■:だよなぁ、セオリーだと。
△△:渓谷に隠れるというのは一見奇襲としては成功しそうに見えるが、そこで迎撃されたら渓谷内部では逃げ場がない。
■■:あの渓谷内部の部隊が囮って事は無いか?
△△:そこまで考えてる指揮官がいるならこっちの負けだろうな。
■■:そうならないために警告の奥まで偵察しに行きたいんだが?
△△:無理だな。ここから向こうは帝国軍の空中騎兵隊に見つかる。
■■:じゃあどうしろっていうんだよ。
△△:とにかく分かったことを後方に伝えるしかない。
■■:分かったよ、結局司令部任せか。
△△:気にするな、いつもの事だ。
■■:とりあえず今の内にでも最優先撃破目標を決めようぜ。
△△:もちろん。コアテラ、ラーヴァナ、アトラトル、その他の対地艦と補給艦を潰せば作戦の続行は不能と思われる。
■■:分かった。着弾観測班と護衛機はどうする?
△△:敵はどちらも空中騎兵隊が担当だろうな、切羽詰まれば尚更だ。
■■:こっちは空の眼と俺らがやるのか?それとも点数稼ぎの貴族のボンボン達にやらせんのか?
△△:貴族のボンボンにやらせたらこっちが先に空中騎兵隊に見つかる。
■■:だろうなぁ。
△△:まぁ、そこら辺も後方に任せるしかない、残念だが。
■■:とりあえず俺達と空の眼は次に備えて一回帰るぞ。
△△:他の偵察隊が来たのか。
■■:ああ、仔細伝えたら後方の奴ら声だけで顔が真っ青になってるのが分かるくらいだったからな、文字通り飛んできたらしい。
△△:笑える話だ。
■■:と言うわけで俺は一足先に帰る。引継ぎは任せた。
△△:お前はなんでそう呑気なんだ。
■■:それが俺の性分でね。
△△:溜息。
■■:光電信で溜息って打つ奴があるか。
△△:やはりお前とは一緒にいたくない。
■■:まぁいいか、じゃあな。体に気を付けろよ。
△△:溜息。
◇◇◇◇
■■時■■分頃、渓谷内に駐留する帝国軍への攻撃の従軍記録、■■氏とのやりとりについて、連邦戦闘艦タリオン級の無線手○○氏の証言に基づく組み立て。
◇◇◇◇
『おい無線手、お前の所属は何処だよ?』
はぁ、こうも偵察機のパイロットは突っかかって来る習性でもあるのか、もしくは奴だけなのか。
「俺はタリオン配備の上部司令塔の無線官だ。」
『ほー、あのタリオン級の指揮室勤めか。』
「少しは敬う気持ちになったか?」
『んなわけねぇだろ、気持ち悪い。』
「そういうと思った。」
当たり前だ、常に前線にいる奴があまり前に出て来ないタリオン級の搭乗員に好意を持っているはずがない。
だがこちらもただのコネでここまで上り詰めたわけじゃ無い。
『だがまぁ、お前さんもただのボンボンって訳じゃ無さそうだな。』
「当たり前だ、無線官に艦の全てがかかっているんだぞ。」
そもそもめったに来ないタリオン級で最前線に派遣されるのだからベテラン揃いだ。
≪検閲≫【後方では指揮室勤めとは名ばかりの貴族が地上で政争に励んでいる事だろう。】
『じゃあお手並み拝見と行きますかね、無線封鎖まであとどれくらいだ?』
「もう少しだ、先に時計合わせをするぞ。・・・3,2,1,セット。」
『セット完了、これより陽動作戦を開始する。』
「諒解した。作戦内容に変更は無し、武運を。」
今回の作戦はタリオン級を中心にした中規模艦隊でヒグラート渓谷へ攻撃をかける。
それに当たって渓谷にいる敵の偵察部隊を蹴散らす、とまでは行かずとも分散させるのが今回の陽動作戦だ。
そこで艦隊は敵の偵察部隊に発見されない場所に待機、戦闘機隊が渓谷をかき乱してから突入という形になる。
肝心なのは敵の偵察部隊―特に空中騎兵隊―に我が艦隊が発見される距離を短くすることだ。
遠くで見つかってしまえば敵に逃げられるし、まともに反撃される可能性があるからだ。
そのために戦闘機や偵察機を使って小競り合いをすることが必要だ。
上手くいけば敵の艦隊をおびき出すことができるかもしれない。
渓谷から頭を出して対空射撃をしようとした時に我々が攻撃する事が望ましい。
こちらの憂慮すべき事態は無線中継機の数で我が艦隊を察せられてしまう事だった。
全ては戦闘機隊の活躍にかかっていたのだ。
■■分後
無数の飛んでくる無線電信を捌きながら各砲塔に指示を飛ばすこと30分、ここまで大規模な砲撃戦になるとは誰が予想しただろうか。
戦闘機隊の活躍も含めて上手く敵を浮足立たせることに成功したものの、やはり空中騎兵隊によって我が艦隊の接近が予想地点より前で露呈してしまったのだ。
そしてこちらは陽動に使った戦闘機、偵察機、無線中継機の損耗が大きかったので、着弾観測に割ける機数が足りない。
それでも残った偵察機は本来の倍に達する仕事をこなしている。
指揮室がそれに応えないわけにはいかなかった。
こうしている今にも無線電信が入ってくる。
点と棒の羅列を素早く解読しながら返信を行っていく。
『早く渓谷の奴らを撃ちやがれ、逃げちまうぞ。』
「敵の戦闘艦の攻撃への対処が先だ。」
『諒解、どいつを狙うんだ。』
「中破しているガルエ級。」
『アイツか、待ってろ。』
上部指揮室は対戦闘艦任務で忙しいのにこちらに連絡してこないでほしい。
そんな愚痴を言っている暇はなかった。
敵が間に合わせの戦闘配置に付いている中グレーヒェン級が我先に逃げ出そうとして、撃ってくれとばかりに横っ腹を晒しているので戦略的優先撃破目標に指定されたのだ。
ここで一度奴との電信は途切れるがすぐに他の機からの電信が飛んでくる。
それを6点打刻機で纏めて指揮室の別の場所に回す。
着弾観測と併せて試射の為に敵のグレーヒェン級に時限榴弾を撃ちこむつもりだろう事が分かった。
そしてさらに統括された情報をもとに機関室、砲塔に指示が飛んでいく。
電信が途切れた、恐らくどこかの無線中継機が破壊されたのだろう。これではグレーヒェン級への着弾観測が出来なくなってしまう。
『おい、聞こえるか。』
電信を切り替えた途端に奴の電信が割り込んでくる。
「ガルエ級の着弾観測に着いたのか?」
『バッチリだ、今から送る。』
そして暗号化してある定点観測したガルエ級の情報がこちらに送られてくる。
それによるとどうやら中破したガルエ級は生体器官の出力が出ないようで、必死に高度を維持しつつ後退をしているようだった。
このデータと繋がっている奴の無線によって正確な射撃が行えると判断し、6点打刻機に優先事項と撃ちこんだ上で情報を回す。
すぐに指揮室から砲塔に指令が行き、ガルエ級に照準を付けることになった。
奴の無線は砲塔指揮室が直接請け負う事となり、半分の時間で効力射に移行しこれを撃破したとの情報が指揮室に入ってきた。
中々奴は大口を叩くだけでは無いようだ、改めて奴の手際に感心したのだった。
■■分後
状況は我々に不利な状況に陥り始めていた。
空中騎兵隊の奴らに戦闘機を多数壊された上にある意味タリオン級より重要な35.5cm単装砲持ちのトリプラ級が流れ弾で被弾し、更に機関部を損傷してしまった。
現状は持ち直したグレーヒェン級が渓谷から抜け出して後退を始めている。
グレーヒェン級は重装甲であり命中弾を出しても貫徹しない事が多い。
そのため35.5cm単装砲持ちの軽巡空艦を投入したのが、それがいけなかった。
ただし渓谷は我々が確保したも同然なので逃げ遅れた(放棄された)アルトラルやコアテラを制圧しつつある。
自由パンノニアへの攻勢を防ぐには十分な成果だが、後方がグレーヒェン級をむざむざ取り逃がすような戦果に満足するはずが無かった。
しかし渓谷を取ったものの、これより向こうは敵の防衛線に突っ込むことになるため艦内で意見が割れていた。
結局後方の鶴の一声で出来る限り侵攻する事が決定された。
『おい、生きてるか?』
渓谷を制圧するまでの間に小休止中に奴が無線で話しかけて来る。
「お前こそ生きてたのか、運が良いな。」
『当たり前よ、俺は偵察機だぜ?戦闘に参加しない分楽だぜ。』
軽くそんな事を言っているが、実はそうでもなかった。
損傷した戦闘機は多かったのだが、被撃墜にまで至る物は少なかった。
逆に武装も装甲も無い偵察機の方が戦略的要点の関係上多数撃墜されていたのだ。
「小休止が終わったら侵攻を開始するぞ、準備は出来ているか?」
『あたぼうよ、だが偵察機が足りねぇな。空中騎兵隊が出てきたら観測の差で負けるぞ?』
「そんな事は分かってるさ、だがむざむざグレーヒェンを取り逃がすことは無いだろうという訳らしい。」
≪検閲≫【『馬鹿だねぇ、グレーヒェン級に有効打を出せる奴が少ないってのに。』】
≪検閲≫【その部分には同意できた。どちらにせよ追撃するには戦力が足りないのだ。】
「次も生きていたら一杯くらい奢ってやるからもうちょっと頑張れ。」
『へへっ、嬉しいがお断りだね。奢るなら全員で一緒に飲もうや。』
「違いない。」
最初の嫌い会っていた頃とは違い、今では軽口が叩ける程度に仲良くなっていた。
後方からの戦闘機、偵察機の増援が不十分な中での追撃戦になる。
これ以上偵察機を失うと今後の戦略に支障が出ることは確実だ。
それを踏まえて戦闘機には偵察機を護衛させなければいけなかった。
■■分後
追撃を開始した我々だったが、案の定タリオン級の足の遅さが災いして突出している戦闘艦から被害が出始めていた。
敵はグレーヒェン級を下がらせるためにクライプティア級が殿に付いていた。
更に一つ下がった場所ではバリステア級が空中騎兵隊の着弾観測を受けながらに重砲撃を加えている事が判明した。
更に更に我々の側方からフレイア級を主軸とした迎撃部隊が進行中との情報まで入手してしまった。
もはやこれ以上の侵攻は不可能と判断する意見がタリオン級の指揮室を包み始めていた。
しかし退却するにしても、少なくとも最前線にいるクライプティア級と空中騎兵隊を何とかしなければ進退窮まっている状況だった。
『おい、状況はどうなってる。』
奴からの電信が入って来た。
「今回はお前が通信担当じゃないだろう、どうしたんだ。」
『その通信担当は墜落した。』
また嫌なニュースを聞く羽目になった。
すぐに打刻機に打ち込み指揮室に回す。
「じゃあ今はお前がその地域の通信指揮か?」
『いや、空の眼がもうすぐこっちに来るはずだからそいつに任せろ。』
「分かった、ところで退却するに当たって敵のクライプティア級を何とかして欲しい。」
『諒解、なら空中騎兵隊を何とかしてくれ。』
「分かった。」
優先事項と打刻した紙を指揮室に回す。
それは了承されたようで、すぐに戦闘機と偵察機を編成してから囮の無線中継機を飛ばして本命を攪乱する戦術に切り替わった。
これを境に我々の艦隊は退却に向けて陣形を組み直していくことになる。
組み直している間は攻撃が散漫になるのでそれを気取られないように戦闘機が一層前線で戦うしかない。
相次ぐ戦闘機の喪失によって偵察優勢の主導権を奪われる前に退却を開始しなければいけなかった。
■■分後
幸いにも戦闘機の喪失はそれほどでは無かった。
それもあって退却を開始した我々であったが、常にバリステア級の砲撃によって艦は疲弊し続けていた。
だが、ついに悲劇的なことが起こってしまった。
エルクⅢがバリステア級の砲撃をもろに食らってしまったのだ。
観測した限りでは上部艦橋中部、船体後部の機関室と後部砲塔の真下、つまり弾薬庫に徹甲榴弾が飛び込んだのだろう。
浮遊機関を完全に破壊され浮力を失ったエルクⅢは真っ逆さまに落ちて行き、空中で船体の後部が爆砕し、地上に落ちる時には船体の前部しか残っていなかった。
浮遊機関を使った我々の艦はそれさえ失わなければ穴だらけでも浮いていられるが、逆にこうして致命的な一撃だけで落ちてしまうのは仕方のないことだった。
しかしそれを除いて退却は概ね順調に行われていた。
囮の無線中継機を使った作戦によって敵の戦闘機や偵察機もついに疲弊して後退を始める部隊が相次いでいる。
このタイミングでクライプティア級への観測砲撃を行えれば敵の追撃を切り離せる絶好のチャンスだった。
『聞こえるか、クライプティア級のデータを持ってきたぞ。』
奴は俺の声が聞こえるのか知らないが、全くもってタイミングの良い奴だとは思う。
「待っていたぞ。早くよこせ。」
『焦るなよ、奴さんは逃げやしない。』
「俺達が逃げてるんだから当たり前だろ。」
『笑えるジョークだ。』
そうして定点観測されたクライプティア級の情報が入ってくる。
打刻機にてそれ以前に溜まっている情報を出力しながらクライプティア級について纏めることを考え始める。
定点観測から見るにあの中に搭載されている生体器官は「上機嫌」である事が分った。
また器官室の腕が良いのか生体器官が嫌がる急制動や急旋回をギリギリの所で使いこなしている事が分かった。
生体器官は無茶な機動の艦の軋みによる痛みで出力が大幅に下がる厄介な器官だが、あの指揮官は軋みを把握できているのか出力を落とさずに航行していた。
あれを人馬一体というのだろうか。≪検閲≫【是非とも連邦のボンボン共にも見習わせたい。】
やっとクライプティア級の情報を纏め始め、打刻機にて出力し指揮室に回す。
指揮室の答えは一つだったろう。
退却を一時中断して砲撃戦を開始し、クライプティア級を航行不能にさせる。
このために残存していたありったけの戦闘機と偵察機を投入する事になった。
主な観測は奴と空の眼が担当する事になる。
それ以外は本命を隠すための囮という事になる。
■■分後
最後の抵抗とばかりに空中騎兵隊の迎撃を受けた戦闘機隊であったが、なんとか偵察機隊を守り抜くことに成功した旨が艦に伝わってきた。
その間に奴と空の眼が身を顧みずに観測し続けたおかげでタリオン級はもちろん、浮遊機関を復旧させたトリプラ級が後から駆け付けたおかげで非常に有利な砲撃戦になった。
クライプティア級に対して有効弾を数発入れたところで艦が降下を始めたので、十分と判断して本格的に退却を開始した。
しかしながらクライプティア級も観測機がいない状況でよくやったと思う。
何せこちらも居住区画に徹甲榴弾を1発食らって火災が発生したのだ。
更に上部艦橋中部にも大穴が開いた。
ただ、奇跡的に徹甲榴弾の信管が激発不良だったらしく被害は大穴が開いただけで済んだ。
以上を以て戦闘は終了、明日には歩兵も合流するため渓谷を我が連邦領にするのも時間の問題だ。
その後の偵察によると帝国は渓谷を取られた事によって大きく勢力図を後退させているであろう事が判明した。
つまり少なくともすぐには渓谷を取り返しには来ないという事、我々の艦隊も損耗していて渓谷から向こうへは動けない事だけは確かな事だった。
問題は渓谷の向こう側は一部どちらの勢力圏内でもない空白地帯になっている事であった。
まぁ問題としては些細なことだ。戦闘機と偵察機で小競り合いするだけの地帯なのだから。
それにしても無線のチャンネルを回しても奴からの返答はなかった。
ついにここまで来て奴のボロい無線機が壊れたのだろう、いい気味だ。
だが一杯奢ると約束してしまった手前、それを反故にするわけにはいかない。
後で探し出して酒場で酔い潰してやる。
◇◇◇◇
備考:■■氏は2階級特進を受領済み
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