第X次帝国迎撃戦の記録

この世界において、観測員は重要な役割であるにもかかわらず、その命は極めて軽視されている。
非戦闘態勢でも「味方以外なにもいない」ということを確認し続けなければならないからだ。
あれは、そう、駆逐艦アルキメディアに乗っていた時だったか…
だがもうそんなことはどうでもいい。軍を辞めた俺は、首都近郊の農場で働いている。
”あれ”のあと、俺は心労を理由に軍を辞めた。
あの一件については黙っていることが条件だったが、日記にまとめるくらいは大丈夫だろう。


帝国の艦隊が北上を開始したとの報を受け、俺の乗るアルキメディアが所属する艦隊は、その迎撃に出撃する運びとなった。
案の定というべきか砂漠の真ん中で接敵、砲火を交えることとなる。
アルキメディアは接敵したのとは反対側にいたが、「挟撃の可能性を考え、警戒を続ける」として艦隊戦には参加しなかった。
なぁに、艦長がビビりだっただけだろう。いくつか乗り継いでいたが、こういう判断をする艦長も他にいたので別段不思議とも思わなかった。
死んだら階級も金もないからな。
本来は非番だったが、本務のやつが戦闘機にやられたとかで、俺が出る羽目になったのだった。
出てみると戦闘機なんていなかったから、ただ単に隠れたかっただけなのかも。やれやれ。
何度か流れ弾が飛んではきたが、せいぜいそのくらいだった。
いや、そのくらいの”はず”だったのか。
うちの艦に当たらなかった弾はそのまま砂漠に着弾し、砂煙を上げる。
おそらくそのうちのひとつだったのだろうが、白く光って見えるところに着弾した。
最初は白いのは光の加減のせいだろうと思っていたが、直後に異変が起きた。
光線が見えたと思うと敵艦の一つが爆発したのだ。
―光線?いやまさか―と思いつつも、白く光って見えたところに目を向けた。
そこには見たこともないものが浮いていた。
―帝国のか?いや共和国か?―と思いつつも最悪の可能性を除外しようと必死になっていた。
最悪の可能性…そう、旧兵器…
だがその最悪の可能性であることを向こうが証明してみせたのだった…
ブリッジが突然起こったことのせいで混乱する中、なんの動きも見せていなかった俺の乗艦だが、
他の味方艦敵艦は主交戦隊から順に光線で撃破されていった。
―撃ってきた方のやつから順に落としていくのか―
などとのんきなことを考えていたが、見逃してはくれないようで、こちらにも光線は向けられた。
当たり所がましだったのか、それともわざと外したのか、うちの艦やその周りの艦は場合によっては、砂漠にうまく着地できたようだった。
アルキメディアの場合は艦首から砂丘に突っ込んだ形になったので、ブリッジの連中やそれより前にいたやつらは死んじまっただろうか。
俺も一瞬砂の中に潜ったが、もがいているうちに顔は表層を越えたみたいだった。


気づくと艦内のベッドで横になっていて、周りの連中は荷支度をしていた。
砂漠の真ん中で落ちて、しかも生きてるんだから、面倒くさいことこの上ない。
俺も周りのやつら同様、私物と大量の食料と水をまとめて、艦を離れることにした。
危うく干物になるところだったが連邦内の集落に行きつき、そこで少しだが補給をさせてもらい、近くの軍キャンプへ向かった。
キャンプでは同じ目にあったやつが集められていて、中には帝国兵もいた。
―味方もいくらかは帝国に迷い込んだか―そう思いつつも情報部とか言う連中の事情聴取に応じていた。
聴取のあとこのことを黙っているなら、辞めてもいいと言われたので、その言葉に従ったというわけだ。


もしこいつが誰かの手に渡ったら…俺は殺されるだろう。
そうならないためにも、こいつは厳重に保管しておく。
だが、俺が死んだあとは?
いや、その時は持ってたやつが殺されるだけだ。俺は死んだ後だし。
最終更新:2014年11月23日 20:36